殻の中で殻の中でまた 今日も どんどん陽が昇ってゆく 待っていてくれはしない また 今日も 時計が追いかけてくる 針は 止まってくれはしない カチ カチ カチ カチ 車の音が クラクションが 僕を追いたてる 僕の世界には 僕しかいない 僕の世界には 広い野原はない しょっぱい風を運んでくる 大きな海はない 冷たい露をふくんだ 張りつめた星空はない 僕の世界は 灰色の殻に包まれている 外の世界は ぼんやりとしか見えない この殻を破ろう 体は もう じっとしてはいない 意思でない何者かが この体を支配し 大声で叫んでいる この殻を破って 外に飛び出せ と この殻は 厚い この殻は 強い 僕をはねのける この殻はささやく 外は 冷たいぞ 外は きびしいぞ 外は 恐ろしいぞ 何故か このささやきは 力を弱めてしまう だから 今も殻の中 やりきれない殻の中 (1969.10.8) |